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ジェンダーと知能の誤解を解く~男性脳・女性脳はバイアスによる性差~

更新日:9月4日



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【目次】

  1. ジェンダーと知能に関する誤解:科学的視点からの考察

  2. 社会的・文化的要因が性差をうみだしている

  3. 職場におけるジェンダーバイアスの影響

  4. ジェンダー平等の推進がすべての人にメリットをもたらす

  5. さいごに:固定観念をみなおし、バイアスを排除する取り組みを


  1. ジェンダーと知能に関する誤解:科学的視点からの考察


男性と女性の脳について、私たちは無意識に「身体も違うのだから、脳も異なるに違いない」と考えがちです。

過去の研究では、「脳の大きさや重量が重い方が知能が高いとし、男性の方が知能が高い」とされていました。実際、成人男性の脳は女性より平均で12%程度重く、10%大きいことがわかっています。また脳の容積と知能指数(IQ)に弱い相関があるという研究結果もありますが、脳の大きさは知能を決定する一つの要因にすぎず、また脳の容積は知能テストの成績にほとんど寄与しないとも指摘されています。

しかし、実際にIQの性差にかかわる研究は膨大な数行われており、これらの結論を述べると、様々な能力を含む一般知能については、女性と男性に違いはないことがわかっています。


  1. 社会的・文化的要因が性差をうみだしている


数学や空間認知能力に関する研究では、性差によって明らかな能力差が生じているわけではなく、個人差の方が大きいと示される一方で、社会的・文化的要因が性差におけるステレオタイプを生み出し、それが結果として、ジェンダー的差異(ジェンダーステレオタイプ)を作り出していることが多くの研究でわかっています。


幼少期に植え付けられるステレオタイプが、成長するにつれ、特定の分野への関心や自信に影響を与えます。親の声かけや教育現場での先生の態度や声かけもジェンダーステレオタイプに繋がります。

森永グループの研究では、「女の子なのに算数ができてすごいね」といった言葉は、無意識に「女性は数学が苦手である」という内的ステレオタイプを強化させ、結果的に女子生徒の自信や意欲を低下させる可能性があると報告されています。これは日本に限った現象ではなく、国際的に観察されている現象で、Ghasemi and Burley (2019)の包括的な国際データセット分析によると、数学に対する価値観、楽しさ、自信について、一般的に性差はごくわずかであることが明らかになっている一方で、複数の調査でステレオタイプによる脅威が、女子の数学的パフォーマンスに悪影響を与えてることが示されています。心理的要因が成績に影響することが理解できる、分かりやすい研究ですね。


また、ジェンダーステレオタイプが強い親のもとで育つと、女子生徒の大学進学率が低下する傾向があることや、教師の性別や教え方が女子生徒の学習意欲や進路選択に影響を与えることも指摘されています。


さらに、女子学生は高校時代の数学の成績よりも、数学に対する「自己概念」のほうが、10年後に理工系の職業についている確率や男女差に影響する、と報告した研究もあります。

学校現場では、「数学は苦手でも仕方ない」先入観を持ち、低い期待を見せたり、男子生徒には難しい問題を積極的に挑戦させる一方で、女子生徒には簡単な問題を与えるなどといった言動には現れない行動も格差を生み出します。


このように、周りが無意識にジェンダーステレオタイプに当てはめた発言や対応を行うことで、人の価値観や人生を大きく変化させてしまうことが分かります。例えば職業選択や進路選択など、一見すると機会の平等が保たれ、本人の自由意志で進路を決めているようにみえることでも実はその意思決定の裏では、こうしたジェンダーステレオタイプが外圧となったり、ステレオタイプを内在化させてしまいます。女性が機会を失い不利益を被っていることの責任は個々人にではなく、無意識の重ね合わせの結果としての社会全体にあることを知っておいてほしいです。


  1. 職場におけるジェンダーバイアスの影響


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職業選択やキャリアの進展においても、ジェンダーバイアスは顕著に表れます。

一例として、地学分野では博士号取得者の40%が女性であるにもかかわらず、終身雇用のポジションに就ける女性は10%にとどまるというデータがあります。(Dutt and Bernstein, 2016)


この要因の一つとして、教授が書く推薦書の内容の違いが指摘されています。男性に対しては「優秀」「突出した才能がある」といった表現が使われるのに対し、女性には、「手先が器用だ」「真面目だ」「従順だ」といったジェンダーバイアスが感じられる言葉が使われる傾向があることがわかりました。


このように、たとえ能力が男性と同程度だったとしても、女性であるだけで不利益を被る(「機会平等」が保たれない)場面は、教育現場や各種職業などでも充分に存在しうることなのです。


また、これらのジェンダーバイアスは無意識の偏見(アンコシャスバイアス)に入るでしょう。バイアスを無くすことも重要ですが、無意識のレベルで行動や言動として現れるため、バイアスが入り込む余地をなるべく無くす仕組みづくりを構築・採用する必要性があります。


実際にアメリカ国立電波天文台(NRAO)では、応募者と審査員の名前を伏せたダブル・ブラインド方式を導入し、ジェンダーバイアスの影響を最小限に抑える取り組みを行っています。また、学術界全体では、ダブル・ブラインド査読がジェンダーバイアスの軽減に有効であるとの報告がありました。2009年に4000人以上の研究者を対象に行われた国際的な調査では、76%がダブル・ブラインド方式を有効と評価しています。


バイアスを無くすための取り組み例をご紹介します。


  • ダブル・ブランドを取り入れる:応募者と審査員の名前を伏せた選考を行う

  • クオーター制を導入する:人種や性別、宗教などを基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度を導入する

  • 多様性観点を評価対象にする:「自分はどのように多様性に貢献できるか」についてレポートを提出させ、評価の対象にする。


  1. ジェンダー平等の推進がすべての人にメリットをもたらす


ジェンダー平等の取り組みは、女性だけでなく男性にも好影響を与えます。

また、日本社会では「男性は家族を支えなければならない」といった稼ぎ手プレッシャーが根強く残っています。「男性だから一家の大黒柱として稼ぐプレッシャー」は男性の自由な職業選択を妨げます。「男はなくな」「弱音を吐くな」といった社会的プレッシャーが男性が苦しめていることもわかっています。日本では、成人の自殺率の男女差は約三倍あり、男性の方が多いことがわかっています。ストレスによる精神的負荷は労働生産性が押し下げることも、ジェンダーバイアスが生み出す一つの負の側面ではないでしょうか。


ジェンダーバイアスをなくし、個々の能力に応じた機会を提供することで、性別に囚われず誰もが生きやすい社会を実現できるのです。


  1. さいごに:固定観念をみなおし、バイアスを排除する取り組みを


ジェンダーに基づく知能や能力の違いは科学的には証明されていません。むしろ、社会的・文化的な影響が個々の進路選択や能力の発展に大きな影響を与えています。私たち一人ひとりが固定観念を見直し、ジェンダーバイアスを取り除くことで、より公平で多様な社会の実現に貢献できるのです。

今後も、DE&Iの視点から最新の研究や実践的な取り組みを紹介し、すべての人が公平に能力を発揮できる環境づくりを支援していきます。


(参考)

書籍:つくられる子どもの性差「女脳」「男脳」は存在しない

書籍:なぜ理系に女性が少ないのか

論文:「親の数学のジェンダーステレオタイプと娘の自然科学専攻」


(著:玉村優佳)


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