DE&Iをこれから始める組織の方へ。DE&I導入を成功させる初期戦略を徹底解説
- 沙百合 山下
- 11月25日
- 読了時間: 8分

これからDE&Iを始める組織へのガイドライン
本記事は、これからDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を本格的に開始しようと考えている組織、およびDE&I推進の取り組みを開始しているものの、まだ十分な成果が出ていない組織に向けたガイドラインです。チーム構成を踏まえ、DE&I導入の初期段階で着手すべきこと、注意点などを解説します。
DE&Iは、多様な人々がその能力を最大限に発揮できるような、包容的な組織文化を醸成するための取り組みです。企業にとって、DE&Iは「望ましい」だけでなく「不可欠」なものとなっています。
【目次】
DE&I導入フェーズの特徴
フェーズ1でやるべきこと
基盤づくりのために必要なタスク一覧
経営陣・取締役会を巻き込むには
DE&I戦略の策定
はじめから完璧な戦略は存在しない
DE&I戦略の作り方
戦略をつくる上で注意すべきこと①どこにフォーカスするか
戦略をつくる上で注意すべきこと②スケジュール
DE&Iチームメンバー別:戦略策定やアクションにおける役割
リーダーシップ(経営層)
HR(人事)
人材育成
採用担当
インナーコミュニケーション
ERG(社員リソースグループ)
フェーズ1で注意すべきこと
最後に
DE&I導入フェーズの特徴
DE&I導入の初期段階(フェーズ1)では、以下の課題が見られます。
DE&Iが経営層の議題として挙がっているものの、一部のメンバーが主導しているだけで、全社的な支持を得られていない。
草の根的な取り組みはあるものの、全社的に明確なビジョンや戦略が確立されていない。
DE&Iのための予算が十分に確保されておらず、ボランティアベースで活動が行われている。
フェーズ1でやるべきこと
基盤づくりのために必要なタスク一覧
DE&Iチームの編成: 経営層や人事担当者など、様々な立場のメンバーからなるDE&Iチームを編成します。
DE&I戦略の策定: 自社のビジョンと整合性のとれたDE&I戦略を策定します。
経営層・取締役会の承認: 策定したDE&I戦略を経営陣や取締役会で正式に承認を得ます。
組織への周知: 組織全体にDE&Iに取り組む理由と戦略を周知します。
現状の把握: 既存のDE&I関連活動を洗い出し、現状を把握します。
年間計画の作成: 年間を通したDE&I活動のアジェンダを作成します。
協力者の特定: 組織内の潜在的な協力者やインフルエンサーを洗い出します。
予算の確保: DE&I活動に必要な予算を確保します。
特に重要なのは、取締役会や経営陣からの公式な支持と、少なくとも1名の役員級のメンバーがチームに参加することです。これによって、組織文化の変革に向けた強力な「ゴーサイン」とリソースが得られやすくなります。
経営陣・取締役会を巻き込むには
必要性とメリットの共有
DE&Iが「望ましい」だけでなく「不可欠」であることを、数値や業界事例を示しながら伝えます。組織が抱える課題(人材確保、離職率など)と結びつけると効果的です。
成果の報告
成果が出始めたら、取締役会や経営会議で定期的に進捗を共有しバックアップが得られることを確認する
DE&I戦略の策定
はじめから完璧な戦略は存在しない
DE&Iを推進していく上では、自社のビジョンと整合性のとれた戦略が必要です。「戦略をとつくろう」とすると、多くの方は、「完璧な計画を立てなければ...」と焦ってしまうかもしれません。しかし完璧を求めすぎて動けなくなるよりは、大枠を素早く作り、必要に応じてアップデートするほうが得策です。社会の状況や社内環境は常に変化するため、計画はガチガチにせず、定期的に見直す前提で、柔軟性をもたせるといいでしょう。
DE&I戦略の作り方
よりイメージが湧きやすくするために、「女性の管理職割合を30%にしたい」企業を想定し、戦略作りについて考えてみましょう。
●まず現状を分析を
自社の従業員構成、採用・昇進データ、従業員アンケートなどを分析し、課題を特定します。従業員の男女比率(一旦生物学的男女比率で算出しましょう)、そして人事がデータにアクセス可能であれば、母集団の男女比率も参照してください。そしてどれだけの女性が昇進しているのか、従業員アンケートを男女などの属性に合わせて分析します。
●目標を設定し、優先順位をつけましょう
SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な目標を設定しましょう。
女性が1割しかいない組織に、「女性の管理職割合をあと3年で30%に!」などといった野心的な目標を立てると物理的に実現可能性が遠のくだけではなく、「やっぱり我が社にはDE&Iは無理だった」と反対層の声を大きくするリスクがあります。この例の場合、女性の管理職を30%を目指すのではなく、現場メンバーを含めた採用を見直し、1割しかいないところを30%にするためにはどうしたらいいか?を考えるといいでしょう。もし現場メンバーに女性が十分にいる場合、昇進率に問題があるかもしれません。まずは課題を特定しましょう。
●アクションプラン作成
具体的な施策、担当者、スケジュール、KPI(重要業績評価指標)を定めましょう。仮に課題がそもそも従業員の男女比に偏りがある場合、まずは採用で女性が多く応募してくれるような施策にフォーカスします。女性が組織に魅力を感じてもらえる発信ができているか?女性の母集団にアクセスするようなスカウト・広報ができているか?見直してみましょう。仮にあなたが採用担当でなかったとしても、どこに協力できそうか、一緒に課題を分析した上でアクションプランをチームで立てます。
●定期的な見直し
少なくとも四半期ごとに戦略の進捗状況を確認し、必要に応じて修正しましょう。
戦略をつくる上で注意すべきこと①どこにフォーカスするか
特定のグループに焦点を当てよういきなり組織カルチャーをまるっと変えることは難しいことは、みなさんが一番よくわかっていると思います。まずはフォーカスするテーマを決めましょう。マイノリティグループの中でも、女性、LGBTQ+、外国人、障害のある方など、すべての属性をインクルーシブにする取り組みを一気に進めることはできません。小さな成功体験を積むことで次のステップへ進みやすくなります。
戦略をつくる上で注意すべきこと②スケジュール
1年後までの目標と、3年程度を見据えた中長期目標を大まかに設定します。あまりにも遠い目標だけでは動きづらいため、「短期での成功」「長期でのビジョン」を両立させたいですね。
さきほどの「女性の管理職割合を30%にしたい」企業をもとに再度考えましょう。1年後の目標が「男女の従業員比率が7:3だったのを5:5にする」を1年後の目標と設定し、3年後には、「管理職の割合が1割だったのを2割にする」といった具合に、ステップアップするような短期、長期の目標を立てましょう。
DE&Iチームメンバー別:
戦略策定やアクションにおける役割
チームメンバーにはどの役割・役職のメンバーが必要かは、XXの記事で解説しました。さらにそれぞれの役職がどういった動きをとるべきか、リストアップしていきます。その専門の役割をはたすメンバーがいなかったとしても、横断チームで役割を定義するようにするとスムーズでしょう。
目標を立てたあと、
●リーダーシップ(経営層)
ミッション・ビジョンを策定し、正式に承認を得る
自らインクルーシブな言動を実践し、手本を示す
組織課題とDE&I目標を結びつけ、全社的に周知・浸透させる
●HR(人事)
採用応募者の多様性や離職率などのデータ収集と活用し問題点を特定する
インフルエンサーを把握してDE&I施策を広める
●人材育成
経営陣へのアンコンシャス・バイアス教育を実施する
既存リーダーシップ研修へのDE&Iモジュール統合する
定期的なフォローアップと学習内容の定着を促す仕組みづくり
●採用担当
採用基準やプロセスをDE&I視点で再検討
求人媒体や応募フローを見直し、多様な候補者と接点を増やす
●インナーコミュニケーション
経営陣からの公式アナウンスを適切なタイミングで行う
活動の進捗を定期的に社内外に発信し、DE&Iカレンダーを活用
社内報やSNSなど、既存チャネルを活用して継続的に情報共有
●ERG(社員リソースグループ)
対象グループ当事者の声をフィードバックとして活用
既存のERGとの連携や、新たなERGの立ち上げサポート
フェーズ1で注意すべきこと
燃え尽き症候群の注意しましょう
まずはチーム編成とタスクの優先度決定から着手し、小さくても一歩を踏み出すようにします。タスクがあまりにも多すぎると、成功体験をうむ前に挫折してしまう可能性があります。
完璧主義を目指さない
最初から完璧を目指すと動き出せなくなります。失敗から学びつつ柔軟に対応することを頭にいれておきましょう。
目標が高すぎないか点検しよう
大きすぎる目標は意欲をそぎます。小さな成功体験を積み重ねるほうが効果的です。
アカウンタビリティ(責任所在の明確化)
データ共有や定期報告の基盤を作り、DE&Iを「本気で取り組む」姿勢を示すことが重要です。またデータがあれば進捗を示すことができ、納得度が高くなるでしょう。
コミュニケーション不足
1回きりの周知では見逃される可能性が高いです。複数チャネル・繰り返しの告知が重要です。
大きなパフォーマンス的施策に頼りすぎる
大がかりなイベントも悪くはないが、地道な継続施策とのバランスが大切。
大宣言のあとフォローがないと「口先だけ」と思われかねません。継続的に発信を続けましょう。
最後に
フェーズ1で重要なポイントは「経営層が当事者として推進に参加すること」「予算をつけること」「データをとれる基盤をつくること」「小さいことでも継続し、成功体験をつむこと」です。計画には柔軟性を持たせて、定期的に見直すことが重要です。
また予算がつけてもらったら、説明責任をはたすことが大切です。四半期に1回など、定期的にサポートしている経営層や社内のメンバーにも進捗を報告し、応援団をつくりましょう。


