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【イベントレポート】欧州トップ大学ではDE&I推進をどう捉える?〜国を超え越境するダイバーシティを学ぶ〜

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2025年8月6日(水)、sorubis創立一周年となる記念すべき日に「これからのDE&I推進」をテーマとしたイベントを開催しました。講師はsorubis COOの宮本佳歩さん。オランダ・アムステルダム大学のDE&Iコースを修了した経験をもとに、欧州トップ大学での取り組みや事例を紹介しながら、日本との違いや共通点について参加者と共に考えました。


宮本 佳歩さん(Kaho)プロフィール 新卒から外資系企業にて営業職などを経て、Google Cloudへ参画。 パートナーセールスを本業としながら、Google Cloud ユーザー会コミュニティ分科会リード、同社DEIアンバサダー、女性のエンパワーメントプログラムの開発、イノベーティブな組織作りを支援するプログラム開発を兼任。 <出版書籍> ・「成功するコミュニティの作り方」(リックテレコム社・2023) ・「優れたエンジニアがコミュニティの中でしていること」(翔泳社・2025)

目次


  1. アムステルダム大学DE&Iコースの概要

  2. 日本とオランダの比較

  3. イベントでのディスカッション内容

  4. 世界は急速に変化している。だからこそDEIの捉え方は振り子のように変わっていく。

  5. 日本のDE&Iのこれから

  6. おわりに

  7. ダイバーシティについて学び合うコミュニティ「DE&I College」開講中!


1.アムステルダム大学DE&Iコースの概要


アムステルダム大学(UvA)は、ヨーロッパトップクラスの名門大学です。ここではDEIプロフェッショナルの方と連携をし、1ターム3ヶ月のDEIマスタークラスを開校しています。

Kahoさんが受講した講義の一部は以下のとおりです。


  • Inclusion matrix - strategy of building an inclusive culture

  • The up's and downs on Age biases

  • Nurturing and managing Diverse talents

  • About Belonging

  • Inclusive Leadership

  • Cultural sensitivity

  • ERG’s – Employee Resource Groups – why they matter

  • Building a platform: How to involve men and create male allies?

  • Mitigating bias in processes

  • All you want to know about working with Gen Z

    受講した講義の一部抜粋


DE&Iの進捗を図る理論、多様な人材を組織で採用・活躍するための考え方、多国籍企業における多様性、ERG、男性アライを育てる、年齢バイアスや帰属意識、Z世代との働き方といった、幅広い分野で講義が展開されています。


2.日本とオランダの比較


同じ授業をうけているクラスメイトは全員オランダ人。日本人で日本の組織に所属していたKahoさんと状況が全く異なっていました。なぜ、オランダと日本でDEIに向き合う風土が違うのか?まずは日本とオランダと基本的なデータを比較しながら考えました。


オランダと日本は人口規模が大きく異なり、オランダは日本の約6分の1にあたります。ジェンダーギャップ指数(2025年)を比較すると、日本は118位である一方、オランダは43位。ただしオランダも近年は指数が低下傾向にあり、国民の多くが危機感を持っているそうです。


また、オランダは2001年に世界で初めて同性婚を合法化し、多様な家族のあり方を法的に認めました。障がい者雇用についてはクオーター制を導入し、一定割合の雇用を義務付けています。さらに、外国人労働者の割合は日本の約2倍にのぼり、社会を支える人材が多様化しているのも特徴です。

日本とオランダの比較
日本とオランダの比較

Kahoさんは次のような気づきを共有しました。


  • オランダはヨーロッパの中でも小国であるため、「自国民」にこだわっていては経済・社会を維持できないとクラスメイトから聞いたそう。

  • オランダ人は英語に堪能。なぜなら国際競争力を高めなければ生き残れないという意識が強いからだそう。

  • ここ5年でジェンダーギャップ指数が低下し、社会全体も保守化している。

  • 男女の役割分担意識は欧州の中でもやや強めで、育児・家事は女性に偏り、パートも女性が多い。専業主婦志向の女性も増えている。

  • それでも、日本に比べれば進んでいると感じた。

  • DEIコースには、部下を200人抱える女性の警察官の方も参加。地方行政の職員・大学職員、一般企業に勤めるマネージャーなど、職種が多種多様なのも驚きだった。


3.イベントでのディスカッション内容


日本とオランダの比較データを踏まえ、参加者同士で次のテーマについて意見を交わしました。

  • 日本の状況(ジェンダーギャップ指数・同性婚・障がい者雇用率・外国人労働者)についてどのような考えを持っていますか?

  • 日本とオランダ、なぜ違いがあると思いますか?どうしたら変化を起こせますか?

  • 日本はオランダから学べることはなんだと思いますか?

ディスカッションテーマ
ディスカッションテーマ

参加者からは次のような声があがりました。


  • 障がい者雇用の進展は人口規模の問題ではなく、オランダは国力を高めるために多様な雇用を推進しているように見える。

  • 日本では政治家や教育現場に大きなジェンダーギャップが存在し、まずはその是正が必要である。

  • ヨーロッパでは「人種」よりも「どの言語を話すか」が重視される傾向があり、人権意識の高さから一人ひとりが主張する風土が根付いている。日本ももっと自己主張してよいのではないか。


このディスカッションを通じて、参加者は日常で「当たり前」と考えていたことが、世界的に見れば必ずしも普遍的ではないことに気づかされました。誰もが「何を変えるべきか」「どう行動できるか」を考える契機となったのです。


4.世界は急速に変化している。だからこそDEIの捉え方は振り子のように変わっていく。


KahoさんがUvAコースで特に印象に残ったのは、世界の政治状況や文化の違いがDEIに与える影響です。トランプ政権の誕生以降、世界各地で「極右」が台頭し、マイノリティの権利やDEIの捉え方は国ごとに揺らぎを見せています。ヨーロッパも一枚岩ではなく、「ヨーロッパでは」と括ることはできないと感じたといいます。


一方で、オランダの企業におけるDEIは戦略や企業アイデンティティに深く根ざし、とりわけ「ジェンダー平等」は組織のDNAに刻まれている印象を受けました。ただし進んでいる国や組織であっても課題は残っており、日本の政治状況と比較する視点を持つきっかけにもなったそうです。


さらに、Kahoさんにとって大きな学びとなったのは「状況が変われば誰もがマイノリティになり得る」ということでした。受講者の大半がオランダ在住のオランダ人であるなか、自身はベルギー在住の日本人としてマイノリティの立場に置かれました。見た目だけでなくコミュニケーションスタイルの違いからも少数派であることを実感し、自分が持つ特権性や弱さに改めて気づかされたといいます。


「誰もがマジョリティ性とマイノリティ性を併せ持っている。だからこそ気づきを言語化し、他者と共有することが重要だと感じた」とKahoさんは語りました。


さらにUvAコースの最後には、受講者全員が「所属する組織に持ち帰るテーマ」を発表しました。オランダ企業・組織の参加者にとっては「ジェンダー平等」はすでに「卒業済み」のテーマであり、議論の中心は「LGBTQ+の権利」「ERGの在り方」「無意識の偏見の除去」など、より多様で先進的な課題に移っていました。日本企業との大きな差に、Kahoさんは強い衝撃を受けたといいます。


また、オランダやEUでは男女の賃金格差に罰則付きの公表義務が課されているほか、監査においてDEI取り組みの報告義務も設けられています。こうした法的な強制力の存在も、日本との大きな違いです。


今回の経験を通じて、日本も「ジェンダー平等」にとどまらず、より広範なDE&Iテーマに目を向け、議論を深めていく必要があると強く感じたと振り返りました。


5.日本のDE&Iのこれから


ここまでの講義を踏まえ、以下の4つのテーマに沿って参加者同士で意見交流を行いました。


・マイノリティ経験をしたことはありますか? ・そのときあなたはどう感じましたか? ・マジョリティであることの特権を感じたことはありますか? ・日本のDEIの行末についてどのような考えをお持ちですか?
みんなで考えよう!日本のDE&Iのこれから
みんなで考えよう!日本のDE&Iのこれから

また、本イベントでは、一軒家レストランの料理長を務めるシェフをお招きし、温かな食事を囲みながらの対話となりました。


美味しいお食事の一部
美味しいお食事の一部

当日は、セクシュアルマイノリティの方、大企業で働く方、障がいを持つ方、国の施策に関わる方、研究者や起業家など、多様なバックグラウンドを持つ皆様にご参加いただきました。外見からは分からなくとも、マイノリティとして生きづらさを抱えてきた経験を共有していただき、学びの多い時間となりました。


今回は全員が日本で生まれ育った方でしたが、日本が世界と比べて高い識字率や安全な水の供給、犯罪率の低さなどを誇る「特権的な側面」についても話題に上りました。


日本のDE&Iの行方については、各々の立場から次のような意見が交わされました。


  • 男性が多数を占める領域では、女性が無意識のうちに軽んじられる場面がある。自分のことでなくても「スピークアップ」する姿勢が必要。

  • 社内で「彼氏いるの?彼女いるの?」といった何気ない会話が、セクシュアルマイノリティにとっては傷つけとなる可能性があるため、前提を決めつけない配慮が求められる。

  • 外見からは分からなくても、障がいを抱えている人は身近に存在する。自ら発信することで周囲の理解が進み、生活のしやすさにつながる。


多様な視点を持ち寄ることで、私たちが「当たり前」と思っていることの中に、誰かを排除してしまう要素が潜んでいることに気づかされました。小さな気づきの積み重ねこそが、日本におけるDE&Iを一歩前に進める力になるのだと実感しました。



6.おわりに


今回のイベントを通じて改めて感じたのは、私たちは誰しもが、無意識のうちに「特権」を持ち、それを日常の中で発揮しているかもしれないということです。


大切なのは、その前提を自覚しながら相手や場に向き合う姿勢を持つこと。自分が気づかぬうちに誰かを排除していないか、どんな小さな場面でも問い直すことが、よりインクルーシブな社会をつくる第一歩だと実感しました。


一人ひとりが自分の立場を省みつつ声を上げ、互いの違いを尊重し合う。その積み重ねが、日本のDE&Iの未来を形づくっていくのではないでしょうか。


"今回のイベントにご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。多様な視点や経験を共有していただいたことで、学びと気づきの多い時間となりました。

sorubisでは今後もDE&Iに関するイベントを継続的に開催してまいります。ぜひ次回以降もご参加いただければ幸いです。"


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