男女の賃金格差の構造と欧州の取り組み~国際イコール・ペイ・デイに学ぶ~
- yukatamamura
- 2025年9月18日
- 読了時間: 11分

【目次】
はじめに
なぜ企業は「男女の賃金格差」の解消に向けて行動しなければならないのか
採用市場での競争力を高める
賃金格差の解消は、労働者のスキルの標準化やキャリア自律をもたらす
欧州はどのように賃金格差を縮めてきたのか
男女賃金格差解消のために、日本企業は何をすればよいのか
最も重要なのは経営陣によるコミットメント
データドリブンで進捗をモニタリング
はじめに
人事の方とお話をする中で「男女の賃金格差是正」に取り組んでいる、という方が非常に増えてきました。日本企業の中でも、賃金格差への関心が高まっているように日々感じます。
2022年6月、岸田政権時に突如始まった男女賃金格差の公表義務と同年7月に女性活躍推進報が施行され、従業員300人以上の男女賃金の差異の情報開示が求められるようになりました。
2023年には男女賃金格差を研究するハーバード大学のクローディア・ゴールデン教授がノーベル賞を受賞し、世間の賃金格差に対する意識が高まっています。
しかしながら、日本はOECD諸国の中でも男女の賃金格差が特に大きい国と言われており、韓国、ラトビア、イスラエルに次いでワースト4位となっています。2024年に厚生労働省が発表した賃金格差は女性が男性のマイナス24.2%でした。この数字にはパートタイム労働者が含まれていないことを鑑みると、労働者人口全体で考えると更にその差は開くでしょう。

東京大学・山口慎太郎教授らが2024年に発表した論文によれば、とある大手製造業では、女性は第一子を出産後、平均して46% 給与が下がることが明らかになりました。同じ条件の男性は8%上昇していました。こうした世界中のデータから、男女の賃金格差には、男性・女性の個別の能力差を超えた社会的構造による賃金格差があることは明らかです。

日本の賃金格差は、毎年縮小傾向にありますが、諸外国と比べるとそのスピードは圧倒的に遅く、周回遅れといっても過言ではありません。その原因を早稲田大学の大湾教授はこのように語ります。
文化的な要因は別として、私は大きく分けて3つあると考える。 まず、経営者の高齢化だ。コロナ禍の間に、高齢の社長の退出が進んだが、それでも、平均値は60歳、最頻値は60代だ。この世代と若い世代との性別役割分業意識や働き方に対する意識の差は大きい。(中略)2つ目に多くの経営者が男女格差の発生源を、「女性求職者や候補者がいない」「女性は昇進に関心がない」「女性は離職率が高い」といった、外生的な要因と捉え、社内に根強く残る無意識バイアスに気づいていない。(中略)最後に、近年高まる人的資本情報開示に対する理解にも問題がある。
ー「男女賃金格差の経済学」(刊:日本経済新聞出版)より抜粋
国連は毎年9月18日を「国際イコール・ペイ・デイ」と制定しました。その狙いは、「男女の賃金格差の現実」を広く社会に可視化することです。今日、9月18日をきっかけに、多くの方々に「賃金格差」はなぜ簡単には縮まらないのか、その社会構造と課題について広く考えるきっかけになりましたら幸いです。
なぜ企業は「男女の賃金格差」の解消に向けて行動しなければならないのか
大前提、男女の賃金格差は社会的構造に起因します。フルタイム労働者に限りその要因を検討すると、結婚・出産をヘた女性への育児・家事負担が重くなり、時短勤務を選択せざるをえない女性の増加、「子育てペナルティ」と呼ばれる女性が成長機会を奪われ、昇進の機会が極めて限定されること。そして長時間労働や転勤を賞賛される人事評価制度では、男性に有利に働き、結果として男性の方が評価されやすく、昇進する者が増え、男女の賃金格差が広がります。さらには上記で触れた社内ではこびる「無意識のバイアス」により、説明できない男女の賃金格差も存在します。こうした要因が複合的に重なり、男女の賃金格差が生まれていくことがわかります。
改めて日本企業は、なぜ男女賃金格差を解消しなければならないのでしょうか。その理由を、人的資本理論を元に考えていきます。
採用市場での競争力を高める
人口減少で労働力が急速に少なくなり、かつ生成AIが台頭してきた今、ますます「採用」が経営上最重要課題と言っても過言ではありません。より優秀な人材を自社に集め、長く活躍してもらうことはビジネスにおいてもっとも重要な差別化条件になります。
その上で、男女の賃金格差が大きい企業は、より優秀な女性に選ばれなくなっていきます。Blundell et al., (2025) の調査によると、男女の賃金格差が公表された国々の女性は、全体の賃金水準が低くなったとしても、賃金格差がより小さい企業を選ぶことがわかっています。
日本のZ世代の中で、男女の賃金格差や昇進機会の均等、管理職への登用などのジェンダー平等に関心が強く、これらをクリアしている企業を選択肢に入れたいという意識が就活生の中で広がっています。私も働く女性の1人してとして、男女の賃金格差の縮小に取り組む企業は、その実態だけではなく、企業全体に広がる姿勢として、男女の見えない格差の解消に取り組むカルチャーがあると前向きに評価することを実感します。
より優秀な人材を獲得する上でも、採用市場でそのブランド力を高めることは非常に重要です。その上でも、男女賃金格差の解消に取り組むことは大きな意義があるでしょう。
賃金格差の解消は、労働者のスキルの標準化やキャリア自律をもたらす
AIの登場により、全ての働く人の働き方を大きく変化させることが余儀なくされています。多くの職種で、その専門性を高めることが重要になっているというパラダイムシフトが起きています。これまでの伝統的企業で採用されていた年功序列型や、まずは横並びで競争させ、昇進が遅いといった習慣は、日本企業の人的競争力を削ぐ原因となっています。
賃金格差を解消することは、ジョブ型の雇用への転換とも深く関連があります。ジョブ型のキャリアは、キャリアの自律を促し、一人一人が自発的な自己研磨を促す作用もあります。
雇用習慣もジョブ型へと変化していく中で、「この職種はこの給与である」と定義されていくと、性別ではなく、そのジョブに対する対価としてスキルや賃金格差が縮まっていきます。
しかしジョブ型に移行するだけでは賃金格差の解消をもたらすことはできません。女性だからやめてしまうといった無意識のバイアスを放置したり、転職者の場合は前職に引っ張られた給与水準を維持・参考にした給与の決定は、賃金格差が構造的に残ってしまうからです。
どのように男女の賃金格差を解消していくべきなのか。賃金格差の取り組みの先進国である欧州各国の取り組みを元に考えます。
欧州はどのように賃金格差を縮めてきたのか
男女の賃金格差が世界でも小さいEUでは、現在平均して12%の男女の賃金格差があります。これはあくまでも平均値で、欧州各国の中でもまだ取り組み状況にばらつきがある状況です。オーストリア(18%)やドイツ(17%)といった国もあれば、ベルギー(0.7%)、イタリア(2.2%)、ルーマニア(3.8%)と5%未満を下回る国もあります。ルクセンブルクでは、女性の平均時給が男性を上回るマイナス格差があります。
欧州でも長年の停滞を経て、EIとしての男女賃金格差の是正に向けて、法的法則力を持つ強力的な手段を打ち出しています。その中心に位置するのが「給与透明化指令」です。
「給与透明化指令」では、雇用主が求人広告もしくは面接前にその職種の責務だけではなく給与帯の範囲を公開することが義務付けられています。
また従業員100人以上の雇用主には、男女の賃金格差に関する報告が義務付けられています。日本も2026年以降に男女賃金格差の報告義務が300人から100人へと拡大をしていきます。こうした情報開示は、求職者の選択や意思決定を助け、実際に開示をするだけで3ポイントの格差が縮まったという報告も存在します。
情報が秘匿されることにより、同一賃金というルールがあったとしても実際に遵守されているかどうかが不透明になります。それを打ち破った「給与透明化指令」はその構造を破壊し、給与に関するデータの収集、分析、開示を強制するものとなりました。
そのほか、「ワークライフバランス指令」や「女性役員比率向上指令」といったEUでの法令が、男女賃金格差を解消させる一躍を買ったといわれています。そのほか、欧州各国での取り組みについてより詳しく知りたい方は、ぜひコメントやお問い合わせなどでお知らせください。
男女賃金格差解消のために、日本企業は何をすればよいのか
最後に、男女賃金格差に取り組みたい企業担当者の方に、組織内で具体的にとるべき施策についてご紹介します。
最も重要なのは経営陣によるコミットメント
経営陣がコミットメントを示し、社内でその道筋を示すことが多様性を高めるために最も重要・かつ効果があるということが研究で明らかになりました。(Kevin, Dobbin & Kelly 2006) 本研究によると、管理職の偏見を緩和することや、マイノリティ社員の社会的孤立をさせない施策をするよりも、経営陣がコミットし、組織の責任として持つことが最も改善ポイントが高いのです。ほかの施策に意味がないわけではなく、経営陣がいかに責任を持てるかが重要です。経営陣のコミットメントが高まるほど、ほかの施策も連動的に効果を示します。
2022年から300人以上の組織には男女賃金格差の開示義務が始まっていますが、開示だけに止まらず、責任の所在を明らかにし、経営陣が旗振りながら取り組みを実施することが必要です。
データドリブンで進捗をモニタリング
男女の賃金格差のデータが分析できたのなら、KPIを設定しましょう。男女の賃金格差の要因がどこにあるのか明らかにした上で、その要因に適した最適なアクションプランが必要です。例えば、長時間労働による賃金格差が発生している場合は、働き方を改善する指標をおきます。労働時間の総時間、有給取得率、男性の育休取得率をモニタリングしながら、フレックスタイムや固定的な働き方ではない働き方を進めていきます。
そのほか、チャイルドペナルティが大きい場合は、男性の長期育休取得の促進を促すほか、パートナーとの家事・育児負担がどちらかに偏らないようにするための取り組みも必要です。キリンや東京海上日動が取り組んでいる、時短社員の体験プログラムなども有効でしょう。
育成段階での男女格差やネットワーキングに女性側に特に困難が発生している場合は、メンタリングプログラムや、女性向けの管理職トレーニング、そして何より全社員が性別における無意識のバイアスを正しく理解することが重要です。
男女の賃金格差の解消は、社会構造的差別を解消するという人権的側面だけではなく、全ての組織が自社にとって優秀な社員を採用し、育て、活躍していく上で重要な施策の一つです。時間がかかっていても着実に成果を出している日本企業も現れています。
もしこの記事を読んでいる読者の方で、男女賃金格差解消に向けて取り組みたい、という方がいましたらぜひお問い合わせください。株式会社ソルビスでは、DEI支援の専門家として初回無料コンサルティングを受け付けております。
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📚 参考文献
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「男女賃金格差の経済学」(刊:日本経済新聞出版 著:大湾秀雄)
Best Practices or Best Guesses? Assessing the Efficacy of Corporate Affirmative Action and Diversity Policies (Kalev, Kevin & Dobby, 2006)
The Largest Gender Pay Gaps in OECD Countries | https://www.visualcapitalist.com/the-largest-gender-pay-gaps-in-oecd-countries/
厚生労働省, 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
なりキリン研修制度 | https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2018/0201_02.html
東京海上日動、残業続きの管理職が時短や早退体験 育児・介護理解へ | https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC0945R0Z00C25A9000000/


