DE&I取り組み事例:資生堂(Shiseido)
- yukatamamura
- 2月28日
- 読了時間: 9分
更新日:9月4日

社員の約8割が女性である資生堂は、早くからダイバーシティ推進に注力しています。
2024年時点で国内の女性管理職比率40.0%を達成し、日本平均(約13%)を大きく上回っています。グローバルでは管理職の58.8%が女性で、取締役の45.5%が女性と高水準です。育児支援策の充実により育休からの復職率は九割超、障がい者雇用も法定基準の約2倍に達し、多様な人材の活躍が生産性と社員エンゲージメント向上につながっています。
本記事では、DE&Iの取り組みにいち早く着手し、そして実績をあげている資生堂の取り組み内容を詳しく解説いたします。
【目次】
女性リーダー育成のため選抜研修
研修内容について解説
なぜ女性に自信を持たせる必要があるのか?~インポスター症候群について~
研修を設計する際のポイント
研修後のキャリアパスや昇進との関連性
柔軟な働き方への対応:社内保育所の設置と代理スタッフ制度
さいごに:DE&I推進でブランド価値向上と、人材採用競争力の強化を
女性リーダー育成のため選抜研修
女性管理職候補の育成をキーアクションとして2017年に「女性リーダー育成塾」(Next Leadership Session for Women、 NLW)を開始しました。
研修内容について解説
プログラムは現在、対象レベルに応じて3段階で構成されており、リーダーシップの在り方に関する内省から実践的なスキル演習まで網羅したカリキュラムとなっています。
管理職候補の女性社員(係長相当)向けの「NLW Basic」
部門長候補の女性管理職向けの「NLW(標準コース)」
役員候補の女性管理職(部門長クラス)向けの「NLW Advanced」

この選抜研修の目的は、女性社員がマネジメントや経営スキルを学びながら「自分らしいリーダーシップ」を発見し、自信と覚悟を持ってより大きな影響力を発揮できるようにすることです。
具体的な研修内容としては、当初は「自信の深化」に重きを置きましたが、その後のストーリーテリング、戦略的思考、コーチングといったスキル研修を組み込み、影響力向上に必要な能力開発も強化しています。
また、女性役員によるメンタリングプログラム「Speak Jam」を導入し、少人数の対話でキャリアのアドバイスを受けられる場も設けられています。
最上位のトレーニングプログラムである「NLW Advanced」では、参加者が経営者の視点で戦略を立案し、プログラム塾長である経営層に対してプレゼンテーションを実践するなど、トップマネジメントを巻き込んだ実践も行っています。
それに加え、「アンコンシャスバイアス(無意識の無意識)の払拭」を目的としたワークショップや、自身のキャリアプランを明確化するセッションなども含まれており、リーダーとして必要なマインドセット形成にも注力しています。
💡なぜ女性に自信を持たせる必要があるのか?~インポスター症候群について~
資生堂の取り組みから学べることは、挑戦する機会を作るだけでなく、従業員が自己理解とスキル開発を通じて内側から湧き出る自信をつけ、自ら成長していく人材を増やす取り組みではないでしょうか。
ここでは、なぜ女性従業員に「自信をつける」仕組みが必要なのかについて解説します。
仕事で実績を残しながらも自信が持てず、自己肯定感が低く、ネガティブな思考に陥ってしまう心理傾向は「インポスター症候群」と呼ばれます。この症候群がある人は、周囲から評価されていても「運がよかっただけで自分の実力ではない」「評価に値しない」と思い込んでしまいます。
インポスター症候群は女性に多く見られ、様々な調査から女性は一般的に男性より自己評価が低い傾向にあることが明らかになっています。女性がこの症候群に陥りやすい理由には複数の要因があります。
社会的・文化的に「謙虚であること」を期待され、成功を強調すると「自慢している」と見られがち
組織内外でのロールモデルの少なさ
完璧主義的傾向があり、小さなミスを「無能の証拠」と捉えやすい
成功を運などの外部要因に帰属させる傾向
男性主導の組織で女性が少数派であるという社会的環境
性差による認知の違い
インポスター症候群によって、自己評価の低さが行動を抑制し、チャンスを逃してしまうことがあります。また、女性の自己評価が相対的に低くなると、組織内のジェンダーステレオタイプを強化してしまう恐れもあります。これは珍しい話ではなく、多くの女性が「自己評価の低さ」から生じる問題に悩んでいます。
このような理由から、女性社員には自信を持ってもらいながら、キャリアアップへの道をサポートしていく必要があるのです。
研修を設計する際のポイント
研修を設計する際のポイントとして、以下のような事柄が挙げられます。
女性限定のグループで研修を進めることで、心理的安全性高く参加者が意見交換ができる場所を提供すること。
ネットワークを形成し、課題の経験から学び合う場を作ること。
管理職手前の層から幹部候補層まで、将来性(ポテンシャル)の高い人材を幅広くアサインすること。
70:20:10の法則:職場での実践(70%)→上司やコーチからのフィードバック(20%)→研修による学び(10%)というサイクルを定着させ、学びを図ること。
プログラムに経営トップ(社長)が参画し、開講時に直接メッセージを発信して参加者をエンカレッジするほか、経営陣や人事部門が継続的にフォローすること。
研修後のキャリアパスや昇進との関連性
資生堂のNLW研修を経て、従業員にとってどのようにキャリアパスに影響があったのか。資生堂のデータを紐解きながらご紹介します。
資生堂の研究結果によると、NLW修了者は、その後のキャリアに関して高い昇進率を示しています。実績データでは、2017年の開始プログラムから2022年までの受講者184名のうち97名が昇格を果たしており、受講者の半数以上が研修後に管理職以上へステップアップしています。2023年時点で90名近くが昇進しており、研修を受けたことで「昇格したいというワクワクがあった」と回答した参加者は88%以上にのぼり、それまで昇進に消極的だった女性社員がリーダー職への奮闘と自信を獲得しています。
本研修は参加者の意識改革とスキル向上に大きな成果を上げています。研修前には「自分に自信がない」「自分はリーダーに向いていない」といった消極的な声が多かったもの、修了後には「自分らしいリーダーシップに気づけ、自信がついた」という自己成長の実感などの意識変革が報告されています。
スキル面では、戦略的思考力ストーリーテリング力、コーチングスキルなど研修内で培った知識を現場で実践し磨き上げているとの報告があります。
研修中に経営トップや役員級と直接対話した経験は大きな刺激となり、経営視点で判断力やプレゼンテーション能力の向上にもつながりました。参加者アンケートでも「自分の成長が実感できる研修だった」との満足度の高い評価が多く寄せられています。
柔軟な働き方への対応:社内保育所の設置と代理スタッフ制度
また、資生堂では柔軟な働き方をサポートするために、さまざまな工夫を施しています。2003年汐留、2017年掛川に社内保育所「カンガルーム」を設置していることが一例としてあげられます。
当該施設は「安全性の高い遊具や保育スペース」「栄養バランスの取れた給食を提供(アレルギー対応あり)」「夜間保育に対応し、交替勤務者も利用可能(掛川工場)」「親が職場と同じ建物内にいるため、子どもの急病時にすぐ対応可」など、小さな子どもを持つ従業員に対してとても安心できる環境が整っており、子育てしながら働く両立の支援となっています。
正確な利用率データは公表されていませんが、汐留本社・掛川工場とも利用枠は常に満員に近い状態と推測されています。特に掛川工場では交替勤務のニーズが高く、夜間保育の利用が増えていると報告されています。
汐留本社の「カンガルーム」設立後、育休後の復職率は92.3%に向上し、多くの社員が働き続ける選択肢を取れる環境であると言えるでしょう。
資生堂の美容部員(BA:ビューティーアドバイザー)は接客業務が中心であり、シフト制で勤務しています。シフト制はより”現場に穴を開けられない”と言う考えから、出産・育児を理由にキャリアを中断せ続ける社員が多いことが問題でした。
その問題を解決するため、育休からスムーズに復帰できる環境を作るため育休復帰後の美容部員(BA)に代わって、一時的に勤務する代理スタッフ(カンガルースタッフ)を構成する制度を構築しました。カンガルースタッフは、育児中の美容部員がシフト調整で勤務できない時間帯や、急な欠勤が必要になった場合に代わって勤務します。美容業界では「育休後に仕事を辞める」ケースが多かったそうですが、制度導入により復職する方が増加したそうです。
スタッフからも、
「短時間勤務でも、カンガルースタッフがサポートしてくれるので安心して働ける」
「子どもの体調不良で急に休む必要があるときも、職場に迷惑をかけてしまった」
「制度があることで、育児と仕事のバランスを取りながらキャリアを継続しやすくなった」
「シフトの調整がしやすい、仕事を辞めずに続けられる環境が整っていると感じる」
といった声が寄せられています。
さいごに:DE&I推進でブランド価値向上と、人材採用競争力の強化を
今回ご紹介した資生堂の女性活躍推進と育児支援の取り組みは、従業員の育児とキャリアの両立を支援する取り組みは、従業員の考えの可能性を広げるだけでなく、組織全体の活力と競争力を高める原動力となります。
まずは、社員や現場の声を聞き、自社で特に課題となっている両立支援ニーズを洗い出しましょう。自社の規模や業態に合わせ、小規模でも実行可能な代替案(例:他配置からの応援体制、在宅勤務・フレックスタイム制度の活用、外部保育サービスとの提携など)を検討する必要があります。
そして、経営層が率先して取り組むことを推進し、社員が制度を遠慮なく活用できるよう取り組むことで、DE&I推進でブランド価値向上および人材採用競争力の強化にも発展していくのです。
(参考)
資生堂女性リーダー育成塾
人材育成と公正な評価
2023年度版「女性が活躍する会社」の総合1位は資生堂に。“管理職登用度”や“ワーク・ライフ・バランス度”などの上位企業は?
【対談】株式会社資生堂様~女性活躍推進先進企業が目指す“しなやか”なチェンジリーダーシップ
インポスター症候群とは?心理傾向の特徴と女性活躍を阻む理由
(著:玉村優佳)



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