
近年、自閉症やADHD、学習障害といった発達障害が、従来の「欠陥」や「障害」という見方から、個人ごとの神経発達上の特徴(特性)として捉えられるようになってきました。このパラダイムシフトは、医学・学術の進歩と概念の変化、社会文化的な意識の高まり(ニューロダイバーシティ運動など)によるもので、近年は日本の経済界でも注目が広がり、企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの一端として、ニューロダイバーシティを取り入れたダイバーシティのある組織をつくり、成功事例も多く見られるようになってきました。
本記事では、なぜニューロダイバーシティが注目されるようになったのかを学術的、そして社会文化的変化、そして企業や職場環境での適応方法について詳しく解説します。
【目次】
ニューロダイバーシティが社会的に広がったワケ
発達障害が「多様性」へ変化した1990年代
ニューロダイバーシティ採用に意義を見出す企業
ニューロダイバーシティが社会的に広がったワケ
企業のニューロダイバーシティの取り組みを説明する前に、社会的背景から押さえていきます。DSMやICDといった世界的な診断基準の改訂をへて、医学的にも捉えら方が変化してきました、例えばDSM-5(2013)では、自閉症関連の診断名を従来の「自閉性障害」「アスペルガー症候群」等から包括的な自閉症スペクトラム障害 (ASD) に統合し、「症状の程度により多様な現れ方をする一つのスペクトラム」と位置付けるようになりました。ADHDもDSM-5で「神経発達障害群」に分類場所が変わり、幼少期だけでなく発達に伴って持続する脳機能の特性であることが強調されています。これらの改訂により、「発達障害=子ども時代の一過性の問題」ではなく「一生にわたる発達の特性」と捉える見方が浸透しました。
この見方の変化は、社会が「病因や欠陥である」と捉えず、発達障害を神経学的多様性の一部である、という理解が広がっていきました。この考え方では、当事者が直面する困難は本人の欠如というより環境との不適合に起因するとされ、「治すべき障害」ではなく環境調整や支援によって解決すべき課題とみなされます。
発達障害の当事者の認知特性や脳機能に関する研究も、この見方の転換を後押ししています。自閉症に関しては、詳細への強い注意や卓越したシステム化能力など、従来「異常」視されてきた特性が実は特定の課題で高い能力をもたらすことが示されています。
また、自閉症の人は、周囲に流されず自分の信じる正答を貫く傾向があるなど、社会的状況でユニークな強みを示すという研究もあります。ADHDについても、「不注意」「多動」といった側面ばかりでなく創造性や発想の豊かさが注目され始めました。近年のレビュー研究では、ADHD傾向の強い人ほど拡散的思考(多様なアイデア創出)の得点が高い傾向を示すなど、創造的問題解決能力の高さが示唆されています。学習障害(限局性学習症/ディスレクシア等)でも、空間認知や立体把握力に優れる傾向があるとの研究があります。
一部の研究者は「左脳の弱み」がある代わりに「右脳由来の強み」が発達していると仮説を立てています。このように科学的知見が蓄積するにつれ、「発達障害者=できない人」ではなく「特定の分野で卓越した能力を持ち得る人」という理解が広まりました。
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