平等って本当によいこと?
- 沙百合 山下
- 9月4日
- 読了時間: 6分

「みんな平等に扱うべきだ」—日本の職場でよく聞かれる言葉です。
しかし、本当の意味での「よい状態」を作るには、実は「平等」ではなく「公平」が必要なのをご存知でしょうか?
この違いを理解することで、なぜ善意ある組織でも知らないうちに不公平な状況を生み出してしまうのか、そしてそれをどう改善できるのかが見えてきます。
一緒に考えてみましょう。
【目次】
平等と公平ってどう違うの?
善意だけでは解決しない「構造的差別」
構造的差別とは?
実際に発生している構造的差別の事例
構造的差別はどうやって変える?
「公平」な職場は、誰にとっても魅力的
平等と公平ってどう違うの?
皆さんは既にご存知かもしれませんが、DE&Iはダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)の略です。
ここで重要なのは、「公平」とは何を意味するのかということです。実は、「平等」と「公平」は異なる概念なのです。
下のイラストをご覧ください。

写真を上下で分割したとき、上が「平等」で下が「公平」の概念です。
何が違うのでしょうか?
上のイラストは、個々の自転車に乗るライダーの個性・特徴を無視して同じ自転車が与えられた図です。
子供には大きすぎる自転車。
背の高い男性には窮屈すぎる自転車。
そして車椅子の方はそもそも乗ることができません。
これが「平等」です。
個々の背景を無視して、「平等」に同じ自転車を与えられています。
これは平等のように見えますが、本当にハッピーなのはサイズがあった女性だけ。
下のイラストは、個々の体格・特徴・特性に合わせたサイズの自転車が与えられています。
子供には小さな自転車を。
背の高い男性には大きな自転車を。
車椅子の方には車椅子専用の自転車を。
こうして個々のニーズに合わせた自転車を与えることで、全員が自転車にのることができるのです。
これが「公平」という概念です。
これを現実世界の組織に当てはめてみても、同じことが言えます。子供には子供に合わせたサポートが、女性、男性、身体障害のある方、発達障害のある方、性的マイノリティなど、個々のニーズに合わせて必要なものを提供することで、全員が能力を100%発揮し輝くことができるのです。
組織でも人によって必要なサポートや環境が異なります。画一的ではなく、ちょっとした配慮をカスタマイズすることで、全員が活躍できるようになります。
では、なぜ多くの組織で「平等に扱っているつもり」なのに、実際には不公平な状況が生まれてしまうのでしょうか?
善意だけでは解決しない「構造的差別」
令和のこの時代、人権意識も進み、組織の中で積極的に差別をしようとしている人事や経営者は減ってきています。(ゼロになったとはいえませんが...)
「女性を差別しよう」「障害者を差別しよう」「子育て女性社員は使えない」—そういった積極的な差別をしているわけではありません。しかし、意識していなくても「差別的構造」が生まれてしまうことがあるのです。
これを「構造的差別」といいます。

構造的差別とは?
当人たちに差別する意識がなくても、社会や企業の構造によって特定の性別や人種などにとって不利な状況が生まれてしまうことを指します。
具体例を挙げてみましょう。
私は現在、パートナーの仕事の都合で海外に居住しています。パートナーが海外で勤務する場合、配偶者のキャリアは断絶されてしまいがちです。
私の場合、元々勤めていた企業でフルリモート・フルタイムで勤務を継続した状態で引っ越しましたが、多くの駐在帯同者は日本在住時に仕事をしていても退職して帯同を選択します。
興味深いことに、帯同をする人の大部分は女性です。(私の体感、99%ほど女性です)
これは企業の構造として男性の方が海外勤務の機会を得ることが多く、そのパートナーである女性が自主的にキャリアを諦めなければいけないという状況が生まれるからです。
海外勤務を命じる企業側は悪意を持って「配偶者にはキャリアは不要」と差別をしているわけではありません。
しかし、現地での就職支援制度が整っていない、語学や資格の問題で就職が困難といった構造的な問題により、結果的に女性のキャリアが犠牲になってしまいます。
悪意をもって差別をしようとしていなくても、属性によって不利な状況が生まれ続けてしまいます。不利益を受けていない側からは、まるで自動ドアのようにスムーズに通れるため、どんなハードルがあるのか見えなくなってしまうのです。
実際に発生している構造的差別の事例
先日、アーティストのスプツニ子!さんのDEIに関する講演で、様々な企業で目にする構造的差別について具体例を聞きました。
事例①:商社での昇進条件
ある総合商社では昇進の必須条件が「海外勤務経験があること」でした。30歳前後が駐在のピークですが、これは多くの女性にとって子育てのピークとも重なります。結果として海外勤務の経験を諦めざるを得ず、女性が昇進できないという構造が生まれていました。
事例②:昇進試験の実施時間
昇進試験そのもの、そして試験対策を業務時間外に行うケースも多くあります。共働き家庭や子育て中の社員にとっては、夕方以降の時間を確保することが困難で、圧倒的に不利な状況に置かれてしまいます。
こういった「ちょっとしたこと」の積み重ねが問題を生んでいます。当事者は現行の制度に対して「やりづらい」と声を上げることを「わがままではないか」と思ってしまいがちですが、そうではありません。
制度を作る側、管理職サイドはむしろ「大事なヒントだから教えて」という姿勢で受け止めることが、構造的差別を発見し改善するカギとなります。
構造的差別はどうやって変える?
この問題を解決するには、人事や管理職など組織の意思決定層に多様なアンテナを立てることが重要です。
「女性に下駄を履かせている」と批判されるケースもありますが、様々な視点からの声を集めるためには必要なプロセスです。
多様な背景を持つ人々の意見を積極的に取り入れることで、見えていなかった構造的な問題を発見し、真の意味での「公平」な組織を作ることができるのです。「公平な組織」をつくることは、個々に合わせた環境や仕組みを整えることで本来持つ能力が発揮できる職場になるということです。
「公平」な職場は、誰にとっても魅力的
「平等」は確かに美しい理念です。しかし、真に誰もが活躍できる組織を作るためには、一歩進んで「公平」の視点が必要です。
個々のニーズや背景の違いを理解し、それぞれに必要なサポートを提供すること。そして構造的差別に気づき、改善していくこと。これこそが、現代の組織に求められる真のダイバーシティ&インクルージョンではないでしょうか。
私たちが目指すべきは、形式的な「平等」ではなく、実質的な「公平」です。公平性を高めることは、誰もが自分らしく働ける職場になることです。メンバーの能力を最大化するだけではなく、魅力ある組織づくりへと繋がります。



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