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男性がジェンダー平等の同盟者になるとき|男性にこそ必要なジェンダー平等 #5

更新日:9月16日


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「男性にこそ必要なジェンダー平等」シリーズ、今回が最後の記事です。#1~4のバックナンバーでは、「なぜ男性にこそジェンダー平等が必要なのか」、男性性とは、男性が払っている「男性らしさ」のコスト、そして、なぜ「男性らしい規範」が家庭やケア労働から遠ざけるのかについて紹介してきました。


過去作を読んでくださった方から、たくさんの応援コメントやご賛同、志を同じく活動される方との出会いなど、たくさんの反響があったことを改めて読者の皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございます!

「男性こそジェンダー平等が必要」だと少しでも感じていただいた皆様は、「じゃあどうしたらいいの?」とお感じになった方もいるかもしれません。

今回はシリーズを締めくくる最後のテーマとして、男性がジェンダー平等のアライになるためのステップや気をつけたいこと、女性や男性以外の性別の方ができる働きかけについて海外の研究を元に紹介します。


【目次】


  • 男性が同盟者(アライ)になるための5つの鍵

    • 1. 明確に「男性のジェンダー平等活動への参加」を奨励する

    • 2. フェミニストとの肯定的な対話

    • 3. 「男らしさのコスト」への気づき

    • 4. 男性にとってのメリットを理解する

    • 5. 女性の視点に共感する

  • アライになるのは簡単?同盟者としての課題

    • メディアの偏りという「見えない壁」

    • ジェンダーで分離された人間関係

    • 「パフォーマティブ・アライシップ」の罠

    • 主導権を握りすぎるリスク

  • 同盟者になることで得られるもの

  • 「ほかのみんなはケアする自分を求めていない」?「多元的無知」を解く鍵

  • すべての人が自分らしく生きられる社会へ


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男性が同盟者(アライ)になるための5つの鍵


ジェンダー平等を実現するため、そして男性が犠牲にしている「男らしさのコスト」から解放されるため、より多くの男性がジェンダー平等活動に参加することがますます重要になっています。(Kimmel et al., 2004; Flood, 2011)これは、個人レベル・集団レベルでの態度変容が必要であり、そして特権や支配力を持ちやすくしている社会システムなどにたいしても同様です。

以前の記事でも言及した通り、「伝統的男性らしさ」を強く内在化している人ほど「ジェンダー平等を支持すること=女性らしく、弱いこと」を認識されてしまうため、積極的に「男性がアライになるべきだ」というメッセージや行動を起こす必要があるのです。

男性がアライになるための鍵を紹介します。


1. 明確に「男性のジェンダー平等活動への参加」を奨励する


組織や社会が、継続的に「男性に積極的な参加」を促すメッセージを送ることが重要です。Sherf et al. (2017) の研究によると、組織における「ジェンダー平等イニシアチブ」への男性の参加を強く推奨したところ、そのメッセージの有無で参加率が33%から55%に跳ね上がったことが分かりました。

こうしたトピックへの積極的参加の必要性をためらわないように後押しし、心理的安全性を高めることがわかっています。


2. フェミニストとの肯定的な対話


「フェミニスト」という言葉に身構える男性も多いかもしれません。しかし、フェミニストの女性と建設的な対話を重ねた男性は、ジェンダー特権への認識が高まり、ジェンダー平等への支持も強くなることが研究で示されています。男性でありながらフェミニストを公言する男性も増えてきました。

ご関心のあるかたはぜひ以下の書籍も手にとってみてください。星野さんが感じてきた「生きづらさと家庭での壮絶な体験」には心がぐっと動かされるはずです。



3. 「男らしさのコスト」への気づき


以前の記事でも取り上げていますので、詳細はそちらをご覧いただきたいのですが、伝統的な男らしさ規範は時に男性のメンタルヘルスを害します。

お酒、たばこ、きけんな運転、暴力行為などリスクの高い行動へでる可能性が高まります。またこうした危険な行為だけでなく社会的孤立によるメンタルヘルスの阻害も報告されています。これに気づいた男性は、ジェンダー平等を「男性vs女性」の対立ではなく、「ジェンダー平等はみんなのもの。でより良い社会を作る取り組み」として捉えられるようになります


4. 男性にとってのメリットを理解する


3点目とも少々被りますが、男性にとってジェンダー平等における恩恵はあります。育児休暇の取得しやすさ、職場での柔軟な働き方、家族との時間の確保、そしてなにより飾らずに自分らしくいること。ジェンダー平等は男性にも具体的なメリットをもたらします。「女性のため」だけでなく、「自分たちのため」でもあることを理解してもらうことが大切です。


5. 女性の視点に共感する


最後に、なぜ、ジェンダー平等を訴える女性が多いのかを今一度考えてほしいと思います。

社会的構造による不利益、性差別や性暴力の被害者になるのは、圧倒的に女性が多いからではないでしょうか。被害者女性の立場に立って考えることで、問題の深刻さを理解し、より積極的に行動を起こせるようになります。ある研究では、性差別を受けた女性の感情を考えるよう促された男性は、性差別的信念への支持が有意に減少したことが分かりました。

現実には「ヒムパシー」という男性加害者側に温情を向けてしまうことが多々あります。「彼は本当はいいやつだ」「女が仕掛けてきたに違いない」と。本当にそうでしょうか?改めて考えていただきたいと思います。



アライになるのは簡単?同盟者としての課題


アライであると声をあげる男性が増えてきました。実際に職場やコミュニティ、そしてSNSでも「活動を応援してるよ」とアライであることを声をかけてくれる方が増えた実感があります。

一方で、男性が同盟者となる際には、いくつかの注意点もあるといいます。


メディアの偏りという「見えない壁」


私たちが日常的に接するメディア(ニュース、映画、テレビ番組、広告など)の多くは、男性中心の視点で制作されています。

これにより、無意識のうちにジェンダー不平等を再生産する情報に触れ続けてしまう可能性があります。この点についてはここでは掘り下げませんが、例えばニュース番組では補佐役である若い女性アナウンサーとメインキャスターの高齢男性との組み合わせであったり、アニメのなかで男性キャラクターをお世話する女性など、性的役割を再生産するものも数多くあります。

こうした偏りに違和感を感じられるかどうかが変化の第一歩ではないでしょうか。


ジェンダーで分離された人間関係


職場や友人関係において、同性同士のネットワークに偏りがちな現代社会。

特に職場ではセクハラにならないかと憂慮するあまり、異性の上司部下と上下の関係が築きにくくなっています。実際に女性が男性管理職との密な関係を築けないために、ロールモデルを発見できないことや、女性の管理職昇進率に影響があることがわかっています。異性の視点や経験への理解を妨げる要因があると、アライとしての理解が深まらない懸念があります。


「パフォーマティブ・アライシップ」の罠


表面的な支援ポーズに留まり、実質的な変化につながる行動を取らない「見せかけの同盟関係」は、むしろ真の変革を遅らせる可能性があります。男性がユニークなポジションを得るためにあえて「ジェンダー平等を支持する」と表明すること、そしてのそれが実際の変革を遅らせる要因になることが研究でわかっています。


主導権を握りすぎるリスク


男性が前面に出すぎると、女性の声が埋もれてしまったり、運動内で新たな不平等が生まれたりする可能性があります。時にはサポート役に徹することも重要です。



同盟者になることで得られるもの


研究では、ジェンダー平等の同盟者となった男性に以下のような変化が見られることが分かっています。


  • より高い人生満足度:他者への配慮や共感といった「共同体的価値観」を大切にすることで、より深い充実感を得られます。

  • 豊かな感情表現:従来の「感情を抑制すべき」という男性像から解放され、喜びや不安といった様々な感情を自然に表現できるようになります。

  • 多様な人間関係:ジェンダーの枠を超えた、より多様で深い人間関係を築けるようになります。


「ほかのみんなはケアする自分を求めていない」?「多元的無知」を解く鍵


実は多くの男性は「他の男性たちはケア的な価値観を重視していない」と思い込んでいますが、実際には多くの男性が家庭により関わりたいと考えているのです。これを「多元的無知」と呼びます。育休をとりたい男性が育休取得を躊躇させる心理現象でもあります。


多元的無知とは? 「多元的無知」とは、社会心理学の用語で、ある集団の多くの人が「自分はある規範を受け入れていないが、他のメンバーのほとんどはその規範を受け入れている」と思い込んでいる状態のことです。社会的集団の構成員に見られるバイアスの一種で、本当は誰も望んでいないのに、誰もが「みんなそう望んでいる」と信じている状態で、望んでいない状況がさらに維持されてしまいます。 日本の人事部より抜粋

この「多元的無知」を解くことにより、男性がより積極的に同盟者として行動できるようになります。



すべての人が自分らしく生きられる社会へ


ジェンダー平等は女性だけの問題ではありません。

男性、女性、どんな性別に関わらず、すべての人が自分らしく生きられる社会を作ることが、真の「ジェンダー平等」の目標です。


研究が示すように、ジェンダー平等の同盟者となった男性は、より高い幸福感と豊かな人間関係を築いています。あなたが大切な人にジェンダー平等の必要性を感じてほしいなら、身近な女性と「ジェンダー不平等を感じた瞬間」を話し合う。フェミニストの男性と対話をする。書籍を手に取る。イベントで話をきいてみる。こんな行動をおすすめします。


どんな小さな一歩でも構いません。

まずは身近な人との対話から始めてみませんか?


一人ひとりの意識の変化が、やがて大きな社会変革につながっていくと信じています。一緒に手を取り、みなが自分らしく生きやすい社会を作っていきたいと、切に願ってこのシリーズの最終章をしめたいと思います。


本記事は、ジェンダー問題を考察するために「男性」「女性」と表記しております。ジェンダー問題を考えるために意図的に生物学的男性・女性を標榜して記載しておりますが、それ以外の性別を排除する意図はございませんのでご了承ください。 ⚠︎ 男性の役割を検討する際に、本研究では男性内の異質性と交差性を認識しており、多くの男性が民族性、社会階級、身体能力、または性的指向の点で必ずしも特権的ではないことを認識しています(Coston and Kimmel, 2012)

🔖 このシリーズについて

「男性にこそ必要なジェンダー平等」は、全5回のシリーズ記事です。


  1. なぜ今、男性にジェンダー平等が必要なのか

  2. 「男らしさの呪縛」が男性から奪うもの

  3. なぜ男性はジェンダー平等に抵抗感を持つのか

  4. 家庭とケアから見える新しい男性像

  5. すべての人のためのジェンダー平等へ(本記事)


📚 参考文献一覧(簡易表記)

  • Wong, Y. J., et al. (2017). 男らしさとメンタルヘルスの成果に関するメタアナリシス

  • Sherf, E. N., et al. (2017). ジェンダー平等イニシアチブへの男性参加に関する研究

  • Wiley, S., et al. (2021). 男性のフェミニストとの接触と支持に関する研究

  • Becker, J. C., & Swim, J. K. (2011). 共感誘導が男性の性差別的信念に与える影響

  • Mazzuca, S., et al. (2022). 男性の職場でのジェンダー平等集団行動に関する研究


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